【経営分析】腕時計のリシュモングループ決算を紐解く(その3 PL編-2)

完全に趣味の世界に入り込み、既に2回も記事化したリシュモングループの決算。

 

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前回は営業利益まで見ていきました。結論としては、

メゾン事業・時計事業共に減益となっており、新型コロナの影響もあってか、中々厳しい状況にはあるようです。

一方、オンライン事業は売上は増加しているものの、営業赤字幅が増加しており、この改善が今後の課題となりそうです。

オンラインはECサイト中心となるので、ECサイト整備及び販促に関する経費の他、恐らく初期投資を行っているでしょうから、その当面はその償却負担もあると見られます。オンラインの売上をとにかく稼いで営業黒字にしていくことが必要ですね。

 という感じでした。

 

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さて、今回はPL(損益計算書)の残りの部分について少し考察してみます。

営業利益まで見てきたので、この後は税後利益までの間。

 

 

海外企業のPL表記方法

日本企業の決算書ですと、診断士2次試験の事例Ⅳ企業もそうですが、PLの構造は大体こんな感じ。

 

  • 売上高
  • 売上原価
  • 売上総利益
  • 販売費・管理費 
  • 営業利益
  • 営業外損益
  • 経常利益
  • 特別損益
  • 税引前利益
  • 税金等
  • 当期純利益(税後利益)

 

でも海外では経常利益という考え方があまりないので、営業利益の後は、

  • 営業利益(Operating Profit)
  • 財務収支(Financial Income / Cost)
  • その他(Others)
  • 税引前利益(Profit before Tax)
  • 税金等(Tax)
  • 当期純利益(Proft after Tax又はNet Profit)
という感じになります。

 

営業外損益と特別損益の切り方が少し違う感じですね。「その他(Others)」の部分は色々と固有のアイテムが出てきたりもします。

 

リシュモンの場合には「Share of post-tax results of equity-accounted investments」がその他扱いで入ってきてますね。

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2019年は何が起きた?

先ほどの特別損益にあたるも見られる「Share of post-tax results of equity-accounted investments」、2020年は17百万ユーロですが、2019年には1,408百万ユーロと超巨額の「利益計上」となっています。これなんだ?

 

2020年度決算書の説明を読んでもあまり詳細なことは書かれていない感じです。

In the prior year, this amount included the revaluation gain on € 1 381 million recorded on the deemed disposals of the existing shareholding of YNAP Group, following completion of the voluntary tender offer 

どうやらYNAP買収関連の特別利益であることは確かなようですね。ものすごく端的に書かれていますが、「revaluation gain on €1381 million」とのことなので、YNAPの評価益といったイメージです。

 

2020年度は当然その該当年度ではないので、それでは実際に巨額の特別利益が発生している2019年度の決算書を開いてみます。こちらには結構細かめに書かれていました。

 

4. Critical accounting estimates and assumptions

(d) Acquisition of YNAP Group During the year to 31 March 2019, the Group completed the acquisition of YNAP Group. The valuation of certain previously unrecognised intangible assets during the purchase price allocation process, which resulted in the recognition of goodwill amounting to € 2 877 million, as well as the subsequent allocation of the goodwill balance to CGUs was based on a number of assumptions and estimates regarding the future performance of the YNAP Group and potential synergies with the rest of the Group.  Full details of this acquisition are provided in note 36.  

 

詳細はNote 36を見ろ、とのことですが、リシュモングループは元々YNAPの株式を49%保有しており(おそらく持分連結だったのかな、と)、これを買収により時価評価したところ(ここで言うPurchase Price Allocation:通称PPA※1を行って測定します)、昔から保有していた49%株式分についても纏めて「のれん(Goodwill)※2」を認識するようになった、とのことです。

 

※1:PPAは買収後にプレミアムを「無形固定資産」と「のれん」に分割する手法です。詳細はかなり専門的になってしまうのでここでは割愛しますが、買収対象会社を時価評価することで、会計上連結する金額や処理する金額を固めて行こう、というものとなります。

※2:「のれん」はすごくすごく簡単に言ってしまえば「買収プレミアム」のようなものです。先ほどのPPAとも少し関連しますが、例で言えばこんな感じ。

  1. 純資産簿価100万円(資産簿価500万円、負債簿価400万円)を200万円で買収
  2. PPAで時価評価したところ、資産時価が550万円、負債時価が420万円であった。
  3. のれんは買収金額 - 純資産時価130万円(550万円-420万円)=70万円

となります。ここで資産時価が簿価500万円から550万円に増えていますが、この中には無形固定資産の評価というものが存在したりします。例えば顧客との長期契約だったり、顧客との関係性であったり、特許権だったり等々。つまり会社の収益を生み出すことが出来る無形資産、ということになりますね。

(勿論有形固定資産の時価評価で評価増になったりもします)

 

さて、話を戻すとYNAPの買収でなぜ巨額の特別利益が上がっているのか、Note36を見ろ、とのことでした。2019年度決算書のNote36によると、

YOOX NET-A-PORTER GROUP In March 2018, the Group made a Voluntary Tender Offer for the remaining share capital of YNAP Group that the Group did not already own. YNAP Group is a luxury fashion online retailer registered in Italy and was traded on the Milan Stock Exchange and the offer was intended to strengthen the Group’s presence and focus on the online channel. The offer was conditional on acceptance by at least 90% of shareholders. On 9 May 2018, the offer period closed and it was announced that the total number of YNAP Group shares tendered in the offer, together with those voting shares already held by the Group, amounted to 94.999% of YNAP Group’s ordinary voting share capital. As such, the minimum acceptance threshold was reached and it was determined that the Group had gained control of YNAP Group from this date.  Immediately prior to gaining control, the Group held an interest of 49%, with voting rights restricted to 25%, and accounted for YNAP Group as an associated undertaking applying the equity accounting method. The carrying value of this investment pre-acquisition was € 1 097 million. The investment in the associated undertaking was remeasured to fair value on the date of acquisition, resulting in a fair value gain of € 1 378 million, which is recognised in Share of post-tax profit of equity-accounted investments.  As at 31 March 2019, and subsequent to gaining control, the Group has acquired the remaining outstanding shares in YNAP Group to increase its shareholding to 100% for a net cash outflow of € 195 million.

な、ながい・・・。読みたくなくなる。

頑張って紐解きますと、太文字部分がポイントです。

  • これまでYNAPのシェアを49%保有し持分連結してきた。
  • 今回の買収で過去持っていた1,097百万ユーロ相当分を時価評価した結果、1,378百万ユーロが評価増となり、
  • 評価益として計上するに至った。

という訳ですね。子会社化に伴う過去から保有していた株式の評価益、という形になります。完全にスポットの一過性利益です。

 

しかもこの場合は「評価益」となりますので、キャッシュは手元に入ってきません。つまりキャッシュフロー的には全くプラスにならないわけです。

 

少し話はそれますが、企業のパフォーマンスを「税後利益」で測るとこういうマヤカシに騙されてしまうことがあります。

一過性利益で税後利益をカサマシ、結構やれてしまいます

実際にはやはり現金を稼ぐ力、つまり営業CFで見ることが大事です。更には稼いだお金で何にどう投資しているのかを見る投資CF、そして足りないお金をどこから調達しているのか、余ったお金をどこに返済・還元しているのかを示す投資CF。

つまりはキャッシュフローをしっかりみることが税後利益を見るよりもはるかに大事です。

PLだけで完結させる場合には、やはり見るべきは「営業利益」だと思っています。今回のYNAPの件のように特別損益には良く分からない大きなアイテムが入りがちですからね。

(日本の場合には利息支払や投資先からの配当を含めた「経常利益」がありますので、ここを見るのもいいでしょう)

 

さて、YNAP買収による既存持分の評価益をドッカンと計上したわけですが、キャッシュフローには影響がない、ということも軽く話しました。

では、配当支払はどうなっているのでしょうか?

In September 2019 a dividend of CHF 2.00 per ‘A’ share and CHF 0.20 per ‘B’ share was paid (September 2018: CHF 1.90 and CHF 0.19 respectively).   

配当支払がCHF(スイスフラン)ですが、よく見ると2018年9月の配当はA株一株当たり1.90 CHF(2018年度決算での利益1,221百万ユーロに対する配当)、2019年9月は同2.00 CHF(2019年度決算での利益2,787百万ユーロに対する配当)となっており、税後利益には決して連動していませんね。

そりゃ評価益はキャッシュフローに関係ないので、配当そんなに増やしませんよ、というお話です。 

 

おわりに

さて、YNAP買収に関する2019年度特別利益について、2019年度・2020年度の決算書から紐解いてみました。

本当はもっと細かい会計処理が社内ではなされているはずですが、決算書に書かれているのはこの程度です。

それでも何がどうなった結果、この巨額な当別利益が生じたのかが少しわかった感じがします。決算説明のプレゼンテーションには以下の文章しか書かれていなかったので、これに比べれば理解が進んだと言っても良いかと思います。

Strong increase due to post-tax non-cash accounting gain on revaluation of YNAP shares held prior to tender offer

これだけじゃさっぱり分からないですねー。

 

ということで、ちょっと自分的にもすっきりしました。

 

さて、まだまだ続きますが、次はBS(貸借対照表分析)にでもやってみましょう。

 

つづく

 

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